最近、テナントの立退きの相談やアパートの立退きの相談が良くきます。
【ご相談内容】
Q.家を借りていますが、家主から、家が古くなったので建て替えるから、立ち退いてほしいと言われています。
立ち退くからには、立退料を出してほしいのですが、借家や借地の立退料は権利として請求できるものなのでしょうか。
また、立退料として妥当な金額は、どのようにして計算すればいいのでしょうか。
A.立退料は、法律できめられたものではありませんが、その支払いがなければ任意の立退きには応じない、という形で、事実上、貸主に対して支払いを求めることができるものです。その金額も事案によりまちまちですが、一応の考え方はあります。
【立退料の趣旨、根拠】
立退料というのは、借地や借家の貸主が借主に対して立退きを求めるときに、そもそも立退きを請求できる法律上の根拠がないか、または根拠があっても裁判をして費用を時間をかけるのはいやだ、という場合に、借主が任意に立退きに応じてくれる条件として貸主から支払われるものです。
法律に根拠規定があるわけではなく、当事者間の話合いできまるものですが、裁判でも、立退料相当額の支払いと引換えに明渡しを命ずる例が増え、借地借家法でもその趣旨が明文化されました。
【借地の立退料の算定方法】
簡単にいえば、➀立退きによって借地人がうけるべき損失に相当する金額が基本で、その他に、➁立退きによって地主がうける利益(裁判の費用、時間をかけずに済むという利益の含みます。)も考慮する、ということですが、➀の損失の部分は、借地人が立退きを請求される法律上の根拠(正当事由など借地契約の終了原因)の有無、強弱によって補償されるべき損失の程度が変わってきます。
法的根拠が十分ならば、借地人は立退義務があるわけですから、補償されるべき損失はほとんどないことになります。以下、場合を分けてみましょう。
(1)立退きの法的根拠がない場合
この場合は、➀の借地人の損失部分は、借地権価格、地上建物の価格、営業補償(営業者の場合)、引越料などが全部入るでしょう。
借地権価格の評価は、都市部の住宅地ですと、更地価格の数割から8割という所もありますが、地域により実態は様々です。
➁の地主の利益としては、立退きにより、高層建物に建替えができて土地の有効利用が図れる利益などもあります。
(2)立退きの法的根拠がある場合
この場合の損失としては、借地権価格は除外されますが、借地人に建物買取り請求権がある場合には、建物価格に若干の上乗せ(場所的利益的なもので借地権価格の1~2 割前後)をしたくらいでしょう。
借地人に建物買取り請求権もない場合は、補償されるべき損失分はほとんどないということになりますが、その場合でも裁判の手間を省けるという利益は斟酌してよい と思います。
(3)立退きの法的根拠が曖昧な場合
この場合は、(1)と(2)との中間になり、法的根拠の強弱の程度によって、どちらに近い額になるかがきまるのでしょう。
【借家の立退料の算定方法】
借家の場合も、考え方は同様です。
この場合は、解約申入れの正当事由などの借家契約終了原因の有無、強弱によります。
(1)立退きの法的根拠がない場合
損失分として、借家権価格、営業補償、引越料などが全部入ります。
借家権価格の評価もむずかしい所ですが、建物価格の3~5割前後の額に、借地権価格の3~4割前後の額を加えたものが一応の目安になるでしょう。
(2)立退きの法的根拠がある場合
補償されるべき損失分はないというべきでしょうから、利益分として裁判費用程度の金額が、多くとも引越料程度の額を加えたものになるでしょう。
(3)立退きの法的根拠が曖昧な場合
(1)と(2)の中間で、法的根拠の強弱によってきまることになります。
なお、借家の事例として、築50年以上の木造老朽アパートで、全6室のうちすでに5室が空室となり1室だけ賃借人が残っていて、最終賃料が月額3万2,000円で、賃貸人が 更新拒絶による解約を理由として建物明渡請求をした事案で、従前の交渉経緯等も考慮して、更新拒絶の正当事由を補完する趣旨で40万円(実質的な立退料)の支払い
をするのと引換えに明渡請求が認められた例もあります。
《参考となる法令など》
借地借家法5条、6条、14条、27条、28条
最判平3・3・22民集45・3・293
東京高判平3・7・16判タ779・272
東京高判平4・6・24判タ807・239
東京高判平26・7・17判時2272・42